ちゃじるしの遊び日記

かわいい遊びのブログ

<第四回 : 完>21世紀アメリカ映画ベスト43(BBCのランキングから)

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イギリスの公共テレビ局BBCが発表した『21世紀の名画ベスト100』から、アメリカ映画だけをピックアップしております。

21世紀アメリカ映画ベスト43
( 第10位 ~ 第1位 )

第10位 (19) マッドマックス 怒りのデス・ロード
第9位 (13) トゥモロー・ワールド
第8位 (12) ゾディアック
第7位 (11) インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌
第6位 (10) ノーカントリー
第5位 (7) ツリー・オブ・ライフ
第4位 (6) エターナル・サンシャイン
第3位 (5) 6才のボクが、大人になるまで。
第2位 (3) ゼア・ウィル・ビー・ブラッド
第1位 (1) マルホランド・ドライブ

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☆ 順位ヨコの( )内がBBCでの正式な順位です
ピクサーのアニメは対象外にしています


 

 第10位 (19) 

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』

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監督:ジョージ・ミラー / 出演:トム・ハーディシャーリーズ・セロン / 2015年 / オーストラリア・アメリカ / アクション

核汚染で文明が失われ、武闘集団が跋扈する近未来を舞台に、怒涛のアクションが炸裂する! 34歳で『マッドマックス』を監督し、その後『ベイブ/都会へ行く』(豚)、『ハッピー・フィート』(ペンギン)と、かわいい動物モノを撮ってきたジョージ・ミラー監督が、御歳70にして初期衝動を爆発させた空前絶後のアクション映画。CGを拒んだ姿勢がかっこよすぎる。こういう哲学を持った大人になりたい。

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 第9位 (13) 

トゥモロー・ワールド

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監督:アルフォンソ・キュアロン / 出演:クライヴ・オーウェン / 2006年 / イギリス・アメリカ / ヒューマンドラマ

繁殖能力を失った人類の姿を描く近未来SF。人類の希望のために戦う人々を描いているのだが、どうも彼ら自身の満足のために無茶をしているようにしか見えず、単なるイデオロギーを見せられているようで残念。臨場感ある長回しシーンへの評価が高く、確かに迫力はあったが、これらのほとんどはアクション・シーンだ。そこに力を注いだ分だけ主題がぼやけた印象だ。新約聖書を中途半端にトレースした箇所も個人的には微妙。

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 第8位 (12) 

『ゾディアック』

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監督:デヴィッド・フィンチャー / 出演:ジェイク・ギレンホールロバート・ダウニー・Jrマーク・ラファロ / 2007年 / アメリカ / サスペンス(実話に基づく)

60年代後半~70年代前半にかけアメリカを震撼させた「ゾディアック事件」を追う男たちの実話に基づいた映画。なので、これから観る方は、事件のことをネット検索せずにお楽しみあれ。当時、渦中のサンフランシスコに住んでいたデヴィッド・フィンチャー監督が、徹底的に事件現場を再現し、元刑事ら関係者を集めて、証言のとり直しまで決行。その気合いが作品に乗り移っている。劇場型犯罪には、その真実以上に人々の想像をふくらませる、妖しい力がある。そのことを、リアリティを追求した劇で示した傑作。日本食についてのセリフがいい場面で登場。

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 第7位 (11) 

『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』

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監督:コーエン兄弟 / 出演:オスカー・アイザック / 2013年 / アメリカ / ヒューマンドラマ

家も金もなく、ギター一本でギリギリの生活を送るフォーク・シンガーの奮闘と、ひとつの時代の終わりを軽やかに描く。舞台は1961年のニューヨーク。ボブ・ディランが登場する直前グリニッジ・ビレッジだ。のちにノーベル賞まで受賞するディランも、このような不器用な面々が築いてきたシーンから出てきたのだと思うと胸が熱くなる。『オー・ブラザー!』同様、T・ボーン・バーネットがサポートした音楽が素晴らしい。 

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 第6位 (10) 

ノーカントリー

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麻薬絡みの大金を奪った男、殺し屋、そしてベテラン保安官による息をのむクライム・ムービー。写真の、いかにも悪そうな男が不条理に人を殺しまくる。まるで死神のようなこの男は、出会う者すべてから生死の実権を奪う。しかし彼もまた、その行いによる因果とは無関係なところで、不条理の只中へと落ちていくのだ。このランキングに3本入ったコーエン兄弟。彼らにしては珍しく、原作ありきの作品であるが、スリリングな展開で持ち味をじゅうぶんに発揮している。

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 第5位 (7) 

ツリー・オブ・ライフ

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監督:テレンス・マリック / 出演:ブラッド・ピットショーン・ペン / 2011年 / アメリカ / ヒューマンドラマ

テキサスに暮らす一家。冒頭で次男が死に、その死が水紋のように広がり映画の輪郭を作っていく。長男の誕生まで時は遡り、彼の視点で一家の日々が描かれていく。あわせて、ビッグバンを経ての地球誕生、生命体の出現から氷河期……とダイナミックな宇宙の営みが映像で紡がれていく。神への信仰を絶やさぬ母と、己の力で上を目指せと叩き込む父。「信仰」が作品の大きなテーマだ。神を信じても救えぬ命があり、力を信じても後悔は避けられない。しかし、神であれ、己であれ、他人の意見であれ、何かに従わなければ、生きていけないのが人間だ。何ひとつ信ぜずして、なお拡大を続ける宇宙とはわけが違う。信じ、裏切られ、折り合いをつけ、また前を向く。抽象的な作品だが、映画でしかできないことを表現している。

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 第4位 (6) 

エターナル・サンシャイン

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「記憶除去手術」で、思い出の消去を試みた元カップルを描く。監督はビョークダフト・パンクなどのミュージック・ビデオを手掛けたミシェル・ゴンドリー、脚本は『マルコヴィッチの穴』『アダプテーション』のチャーリー・カウフマン。00年代を代表するふたりの鬼才が抜群の相性を発揮。現実離れした設定がロマンスを一層際立たせ、幻想的な映像が映画ならではの満足感を与えてくれる。エンドロールで流れるBECK(コーギスのカバー曲)も最高にはまってる。思いだすたび、しびれる作品だ。

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 第3位 (5) 

6才のボクが、大人になるまで。

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監督:リチャード・リンクレイター / 出演:パトリシア・アークエットイーサン・ホーク / 2014年 / アメリカ / ヒューマンドラマ

同一キャストで12年の歳月をかけ、6才の男の子(ドラゴンボール好き)が18才になるまでを2時間46分に収めた作品。描かれているのはごく普通の家庭。誰もがきっとそうだと思うけど、ある時点で人生を振り返ってみれば、過去の悩みはいつの間にか消え去っているものだし、喜びもまた思い出という箱の中にしまわれている。本作でも折々にそれなりのアクシデントが起きるが、ひとつひとつを深く追うような描写はしていない。過去に抱いた気分や状態をそのまま保有し続けることは不可能であり、ただただ目の前の一瞬を積み重ねていくことが人生なのだ。長期間撮影の本懐を果たしたかのような新しいタイプの映画に仕上がっている。監督は『ビフォア・サンセット』(32位)のリチャード・リンクレイター。納得。

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 第2位 (3) 

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

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監督:ポール・トーマス・アンダーソン / 出演:ダニエル・デイ=ルイスポール・ダノ / 2007年 / アメリカ / ヒューマンドラマ

このランキングで3本目のポール・トーマス・アンダーソン監督作。20世紀初頭のアメリカ西部。石油採掘で経済的な成功を収めた男の末路を描く。成功が男から人間性を奪った、と言うより、もともと人間性が欠けているがために、この種の成功を収めることができた、と言ったほうが正しそう。少し飛躍して考えれば、私たちはこのような男たちが作り上げた競争社会、システムの中に身を置いているわけだ。作品中の重要人物である宗教家からも、同様の危うさがたっぷり伝わってくる。映像の美しさ(アカデミー賞撮影賞受賞)も相まって、古典になり得る重厚な作品。

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 第1位 (1) 

マルホランド・ドライブ

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監督:デヴィッド・リンチ / 出演:ナオミ・ワッツ / 2001年 / アメリカ・フランス / サスペンス

深夜のロサンゼルス。ハリウッドを見下ろす山道、マルホランド・ドライブでの自動車事故からはじまるサイコ・スリラー。もともとはABCのテレビドラマになる予定だったが、パイロット版(試写用の第1話)で破談。映画化に舵を切り直し、追加撮影を行い完成させた。テレビ用に撮った作品がベースにも関わらず、第1位を獲ってしまうのが超人デヴィッド・リンチ監督である。『ツイン・ピークス』でも証明済みだが、テレビ、映画を問わず、ひたすら自分の美学を貫くリンチ。本作も、ストーリーを正確に掴むことが不可能かつ、そのことにたいした意味を与えない、お馴染みのスタイルが炸裂。古き良きアメリカと常軌を逸した世界を並走させ、映像ならではのうねりで語りかけてくる。 つい先日、二度と長編映画は撮らないと公言。残念でしかたない。

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<第三回>21世紀アメリカ映画ベスト43(BBCのランキングから)

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イギリスの公共テレビ局BBCが発表した『21世紀の名画ベスト100』から、アメリカ映画だけをピックアップしております。

21世紀アメリカ映画ベスト43
( 第20位 ~ 第11位 )

第20位 (40) ブロークバック・マウンテン
第19位 (39) ニュー・ワールド
第18位 (33) ダークナイト
第17位 (31) マーガレット
第16位 (27) ソーシャル・ネットワーク
第15位 (26) 25時
第14位 (25) メメント
第13位 (24) ザ・マスター
第12位 (22) ロスト・イン・トランスレーション
第11位 (20) 脳内ニューヨーク

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☆ 順位ヨコの( )内がBBCでの正式な順位です
ピクサーのアニメは対象外にしています


 

 第20位 (40) 

ブロークバック・マウンテン

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監督:アン・リー / 出演:ヒース・レジャージェイク・ギレンホール / 2005年 / アメリカ / ラブロマンス

苛酷な季節労働で育まれた男同士の友情が、ある晩、一線を越えた関係へとステップ・アップしてしまう。故郷に戻り妻子を持ったものの、生涯にわたり惹かれあった彼ら。普遍的な恋愛映画のモチーフである、本心と通念とのあいだで葛藤する姿を描きつつ、同性愛ならではの事情についても、過不足なく描写している。悲恋ではあるが、その原因は自分を救えなかった本人にある。身も蓋もない言い方だが、そのことが、この作品の価値を高めていると思う。

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 第19位 (39) 

ニュー・ワールド

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監督:テレンス・マリック / 出演:コリン・ファレルクオリアンカ・キルヒャー / 2005年 / イギリス・アメリカ / ラブロマンス(伝説に基づく)

インディアン団体からは、植民地政策を正当化するための捏造と糾弾されているアメリカ建国の伝説、先住民女性ポカホンタスとイギリス人入植者とのラブストーリーを映画化。伝説に沿って、異文化間の恋愛を丁寧に描いているのだが、その分だけ複雑な気持ちになる。恋愛とは個人的体験であるはずなのに、この恋愛に限っては「新世界アメリカ」の宣伝に利用され、のちに多くの先住民を苦しめることになるからだ。個人の範疇から離れ、見知らぬ人々に影響を与えてしまう罪なき愛。史実から見つめると、あまりにやるせないラブストーリーなのだ。

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 第18位 (33) 

ダークナイト

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監督:クリストファー・ノーラン / 出演:クリスチャン・ベールヒース・レジャー / 2008年 / アメリカ・イギリス / SF

このランキングの中で、断トツのヒット作。犯罪撲滅のためにバットマンが奮闘するゴッサム・シティに、ジョーカーと名乗る新しいタイプの犯罪者が現れる。偽善を憎み、人間の本性を問うように犯罪を重ねていくこの男は、市民の命と引き換えに、バットマンに正体を明かすよう迫る。勧善懲悪ではなく、妥協点のないイデオロギーの対立を描いており、社会のルールに従えという主張と、そもそものルールがおかしいという主張がぶつかり合う。どちらが正義でも悪でもない。どちらの主張も、自分にとっての正義なのだ。バットマンを突き放して描くことで、あらゆる紛争の原因と仕組みを浮き彫りにしている。

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 第17位 (31) 

『マーガレット』

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軽はずみな行動によって、女性ひとりが死亡する交通事故を招いてしまった女子高生。死亡した女性の不注意として片付けられたこの出来事を通し、不安定に揺れ動く彼女の日々を描く。タイトルは、19世紀の詩人ホプキンスの『春と秋 ある幼子に』の一節「マーガレットよ、なぜ嘆く?」から。この詩は、木の葉が落ちるのを人が死んだかのように悲しむ純粋な感覚を、人はやがて失うものだ~といった内容であり、本作でもそのような展開となる。彼女の場合、自責の念を振り払うべく、自分を正当化していく過程で自分を見失い、挙句の果てには中絶する。自己正義すら実現できず、挫折しまくった彼女であるが、最後に流した涙は、成長へとつながっているはずだ。

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 第16位 (27) 

ソーシャル・ネットワーク

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監督:デヴィッド・フィンチャー / 出演:ジェシー・アイゼンバーグジャスティン・ティンバーレイクルーニー・マーラー / 2010年 / アメリカ / ヒューマンドラマ(実話に基づく)

ハーバード大生の数人が関わり開発されたFacebook。のちに彼ら内部で起きた2つの訴訟を通し、当時のいきさつを振り返る青春群像劇。Facebookをやっていない、知識ゼロのちゃじるしだが、心配無用の面白さだった。マーク・ザッカーバーグ(現CEO)がとにかくヤバい男で、他人のカネやアイディアを躊躇なく使い、キーボードを叩きまくってFacebookを開発する。自分にしか見えていないヴィジョン、確信に突き動かされていく彼。天才とは、このように没頭し、確信を具現化できる人のことだと思う。生み出したものが世間で受け入れられるか否かは、また別の話。ザッカーバーグは本物の天才だ。

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 第15位 (26) 

『25時』

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監督:スパイク・リー / 出演:エドワード・ノートンフィリップ・シーモア・ホフマン / 2002年 / アメリカ / ヒューマンドラマ

ニューヨークを舞台に人種間のさまざまなドラマを撮り続けているスパイク・リー監督が、主役に初の白人俳優(エドワード・ノートン)を起用。懲役7年が確定した男のシャバでの最後の夜を描きつつ、原作にはない演出を加え「9・11アメリカ同時多発テロ」直後のニューヨークを切りとる。大事に至り初めて覚える不安。自らを振り返り、反省と後悔をする一方で、他者にも責任を求めてしまう心理状態。男の人生にアメリカが重なっていく。

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 第14位 (25) 

メメント

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監督:クリストファー・ノーラン / 出演:ガイ・ピアース / 2000年 / アメリカ / サスペンス

妻に降りかかった事件以降、新しいことを記憶できなくなった男。メモを頼りに犯人を追う日々を、結末から発端への時系列で繋いでいくフィルム・ノワール。オチから観ているようで、実際にはオチへ向かっていく構成に初めは戸惑うが、進行するにつれ脚本の完璧さにシビれること必至。人間は記憶を根拠に、思考や感情を生み出し生きている。それは偉大なことでありつつも、見かた次第では滑稽でもあるのだ。DVD版にはリバース再生(正しい時系列)の特典があり、本編のあとはこちらもおすすめ。『ダークナイト』(18位)『インセプション』(22位)のクリストファー・ノーラン監督の出世作

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 第13位 (24) 

『ザ・マスター』

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1945年、第二次世界大戦終戦。帰還したものの、PTSDを抱え、行き場のない元海兵と、急伸中の新興宗教を率いる「マスター」と呼ばれる男との邂逅を描く。この宗教団体のモデルは、映画界でもトム・クルーズジョン・トラボルタが入信している「サイエントロジー」だと囁かれており、ところどころで酷似したエピソードが登場する。とは言え、戦後の人々のありかたのひとつを編纂した作品であり、新興宗教を批判するものではない。時代に翻弄され、または時代を利用し、生きる人々の姿を描いている。

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 第12位 (22) 

ロスト・イン・トランスレーション

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舞台は新宿。言葉のわからない異国に戸惑い、さらには、母国での生活においても自分を見失いつつある男女を描く。ストーリーを追体験できるよう、日本語の部分にはあえて各国語字幕をつけないというコンセプト。つまり、日本語がわかる私たちにとっては、その意図にそった鑑賞は不可能というわけだが、それを脇に置いても素晴らしいのがこの作品の実力。日本人ゆえの鑑賞ポイントもたくさんある。監督のソフィア・コッポラが愛した日本でしか起こり得ない傑作ロマンス。

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 第11位 (20) 

脳内ニューヨーク

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監督:チャーリー・カウフマン / 出演:フィリップ・シーモア・ホフマン / 2008年 / アメリカ / ヒューマンドラマ

人生に失望した劇作家がニューヨークを再現した巨大な舞台を作り、自分という役を他者に演じさせる……00年代に怪作を連発(※第4位を参照)した脚本家、チャーリー・カウフマン自らの初監督作。そのせいか、彼の根本にある難解な部分がむき出しになっており、正直、ツラい内容。主人公のユング的「自己実現」を目指す求道者の一面と、心身ともに絶不調な重病患者の一面が交錯し、ストーリーはこじれまくる。混乱する展開は洗脳にも似て、ごくたまに現われるわかりやすいシーンでホッとしてしまう。なんと言うか、観る側の感情を搾取する作品に思える。

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<第二回>21世紀アメリカ映画ベスト43(BBCのランキングから)

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イギリスの公共テレビ局BBCが発表した『21世紀の名画ベスト100』から、アメリカ映画だけをピックアップしております。

21世紀アメリカ映画ベスト43
( 第30位 ~ 第21位 )

第30位 (69) キャロル
第29位 (68) ザ・ロイヤル・テネンバウムズ
第28位 (67) ハート・ロッカー
第27位 (62) イングロリアス・バスターズ
第26位 (61) アンダー・ザ・スキン 種の捕食
第25位 (59) ヒストリー・オブ・バイオレンス
第24位 (57) ゼロ・ダーク・サーティ
第23位 (53) ムーラン・ルージュ
第22位 (51) インセプション
第21位 (44) それでも夜は明ける

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☆ 順位ヨコの( )内がBBCでの正式な順位です
ピクサーのアニメは対象外にしています


 

 第30位 (69) 

『キャロル』

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監督:トッド・ヘインズ / 出演:ケイト・ブランシェットルーニー・マーラー / 2015年 / アメリカ・イギリス / ラブロマンス

代表作に『太陽がいっぱい』がある女流推理作家パトリシア・ハイスミスが、デビュー直後に別名義で書いたレズビアン・ロマンスのバイブル的作品『キャロル』を映画化。同性愛は病院で治療するものとされていた50年代の、若き写真家志望の女性と人妻とのラブストーリーだ。同性同士の恋愛で、こんなにも美しい作品が作れることに、当時の読者は歓喜したに違いない。恋に落ちるのに理由なんてない……さまざまな困難がありつつも、ひたすらその一点を死守している。監督はゲイのトッド・ヘインズ。『エデンより彼方に』(40位)とあわせてどうぞ。

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 第29位 (68) 

ザ・ロイヤル・テネンバウムズ

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監督:ウェス・アンダーソン / 出演:ジーン・ハックマンベン・スティラー / 2001年 / アメリカ / コメディドラマ

それぞれの分野で成功をおさめた天才3兄妹、考古学者の母、ダメな父からなるテネンバウム家の波乱を描いたコメディー。これまたウェス・アンダーソン監督が得意とする群像劇、アンサンブル形式の作品となっており、個性が強いキャラクターが多数登場。一家のほどよい崩壊ぶりと、適度な修復具合が絶妙で、意外としっかり感動できた。美しい色使いも相変わらず素晴らしい。一家の隣に日本大使館があり、いいシーンで使われている。

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 第28位 (67) 

ハート・ロッカー

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監督:キャスリン・ビグロー / 出演:ジェレミー・レナー / 2008年 / アメリカ / 戦争アクション

イラク戦争中のバグダッド近郊。時間や場所、形式を問わず仕掛けられる爆発物を処理する米軍兵。戦地での苛酷な任務を描きつつも、戦争の恐ろしさを訴えると言うよりは、この危険な仕事にしか生きがいを見出せなくなってしまった主人公に寄りそった作品。戦地で精神的に追いつめられることにより、生に執着しなくなる心境は、さまざまな戦争映画で描かれているが、本作にはそこに至るまでの描写はなく、主人公は登場時からそんな男だ。この抜け感が本作のよいところで、ハラハラさせられっぱなしのストーリーに没頭できる。

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 第27位 (62) 

イングロリアス・バスターズ

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第二次世界大戦中のナチス占領下フランス。アメリカが派兵した対ナチス秘密特殊部隊「イングロリアス・バスターズ」と女性映画館館主の抗戦を描いたフィクション。タランティーノ監督と戦争映画という組み合わせは少々意外だが、彼以外にはまず書けない驚愕のストーリーで、文字通り、映画を使って世界を変えてしまうのだから、映画ファンにはたまらない展開だ。彼はこのあと『ジャンゴ 繋がれざる者』『ヘイトフル・エイト』と西部劇を撮っているが、こちらも同様に、そのジャンルが持つクラシカルなイメージを刷新していると思う。

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 第26位 (61) 

『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』

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監督:ジョナサン・グレイザー / 出演:スカーレット・ヨハンソン / 2013年 / イギリス・アメリカ・スイス / SF

エイリアンから見た人間の世界。または、食糧としての人間との交流。ストーリーよりも、コンセプト重視の実験的な映画だ。エイリアン役のスカーレット・ヨハンソンヌードも披露)と数人を除き、役者ではない人々が大勢出演している。彼女が物色するのは隠しカメラで撮られた市民だし、謎めいたバイク・マンは、プロのロード・レーサーだ。また、心象風景のような映像や、ミカ・リーバイによるノイズ、ドローンといった音楽も大きな役割を担っている。監督は、ジャミロクワイなどミュージック・ビデオも手掛けるジョナサン・グレイザー。カルト映画として語り継がれるであろう作品。

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 第25位 (59) 

ヒストリー・オブ・バイオレンス

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監督:デヴィッド・クローネンバーグ / 出演:ヴィゴ・モーテンセンエド・ハリス / 2005年 / アメリカ・カナダ / サスペンス

家族を愛し、仕事にもまじめなダイナーの店主。ある夜に起きた従業員を守るためのバイオレンス(銃撃)が、思わぬ展開を呼ぶ。暴力の宿命たる悲劇の連鎖、正当防衛を英雄視することへの罠、はたまた、遺伝する暴力と、さまざまな角度でバイオレンスを描いている。デヴィッド・クローネンバーグ監督へのマニアックなイメージを、いい意味で裏切ってくれる、わかりやすい一本。

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 第24位 (57) 

ゼロ・ダーク・サーティ

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監督:キャスリン・ビグロー / 出演:ジェシカ・チャステインジェイソン・クラーク / 2012年 / アメリカ / サスペンス(実話に基づく)

ウサマ・ビン・ラディンを追うCIAチーム。2001年の「9・11同時多発テロ」から、2011年の「ビン・ラディン殺害」までの約10年を描く。アメリカ政府の機密情報をもとに製作された、という説もある、臨場感あふれる作品だ。莫大な時間とカネを投じておきながら、アルカイダ幹部の行方はまったく掴めない。その間、テロは世界各地で繰り返されていく……最終的には、執念でアジトを割り出しミッション完遂。ちゃじるしも思わずガッツポーズしてしまったのだが、冷静になれば、現在もアルカイダをルーツに持つISISは健在なわけで、ちょっと何と闘っているのか問い詰めたくなった。

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 第23位 (53) 

ムーラン・ルージュ

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監督:バズ・ラーマン / 出演:ニコール・キッドマンユアン・マクレガー / 2001年 / アメリカ / ミュージカル(ラブロマンス)

このランキングで唯一のミュージカル映画。パリのキャバレー・ムーラン・ルージュで働くダンサーと作家の恋を、1899年の設定ながら、エルトン・ジョンデヴィッド・ボウイなど現代のポップスを多用し描く。なんと言っても主演ふたり、特にユアン・マクレガーの歌唱力がすばらしく、彼の唄うラブソングこそが、もっとも雄弁に本作を語っている。自由を愛し、我が道を貫くボヘミアンたちの生き生きとした姿も魅力的だ。

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 第22位 (51) 

インセプション

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監督:クリストファー・ノーラン / 出演:レオナルド・ディカプリオ渡辺謙 / 2010年 / アメリカ / SF

他人の潜在意識(夢)に潜入し、情報を盗む男たち。日本人実業家からの依頼で、その技術を応用した仕事に挑戦する。夢の中で夢を見させ、その夢でも夢を見させ……と多層的構造でストーリーが同時展開していくのだが、すっきりしており分かりやすい。街そのものに意思があるような『ダーク・シティ』、仮想世界と現実を行き来する『13F』『マトリックス』など、20世紀末以降に作られた近未来SFのいいところが、ぎっしり詰まっている。渡辺謙がめちゃめちゃいい役で、最後までドキドキさせられた。

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 第21位 (44) 

それでも夜は明ける

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監督:スティーヴ・マックイーン / 出演:キウェテル・イジョフォールピタ・ニョンゴブラッド・ピット / 2013年 / イギリス・アメリカ / ヒューマンドラマ(実話に基づく)

のちに奴隷制度廃止運動家となったソロモン・ノーサップの回想録を映画化。自由州(奴隷制廃止)と奴隷州が混在する1841年のアメリカ。自由州の黒人である彼だが、仕事で立ち寄った奴隷州で拉致され、プランテーション経営者に売られてしまう。以後12年にわたる、苛酷な奴隷生活を描いた作品。重い内容ではあるが、何かにつけ競争を求められる社会の中で、それは姿を変え存在している。昔は酷かったんだなぁだけで済ませるのは傲慢、もしくは麻痺しすぎだろう。今でも誰もが当事者なのだ。アカデミー賞三冠、興行的にも成功してみせた偉大な作品だ。

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